2つの決まりの関係
労働施策総合推進法とカスハラ対策の指針(2026年10月1日施行)
労働施策総合推進法第33条が事業主に措置を義務づけ、その内容を指針が定めています(カスハラ対策の指針 第1項、企業マニュアル はじめに)。方針の明確化と周知、相談体制、起きた後の対応、特に悪質なものへの対処方針と体制、相談者のプライバシー保護と不利益な扱いをしない旨の5つです(カスハラ対策の指針 第4項)。
旅館業法(2023年12月13日施行の改正)
旅館業の営業者は、法律が定める場合を除いて宿泊を拒んではならないとされています(旅館業法 第5条第1項)。改正で、一定の要求を繰り返したとき(特定要求行為)に宿泊を拒めることが加わりました(同項第3号)。
カスハラ対策の指針は、特に悪質なものへの対処の例として、法令の制限内での商品の販売やサービスの提供の停止などを挙げ、業法などによる定めがある場合など、業種・業態により必要な対応が異なることに留意して方針を定めることが効果的としています(カスハラ対策の指針 第4項⑷)。企業マニュアルも、その例として旅館業法を挙げています(企業マニュアル 4.5.1、P.43)。
宿泊を拒める「特定要求行為」とは
旅館業法の指針によると、特定要求行為は、実施に伴う負担が過重で、他の宿泊者への宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として省令で定めるものを、繰り返すことです(旅館業法の指針 3(2)①)。省令が定めるのは次の2つです(旅館業法施行規則 第5条の6)。
- 宿泊料の減額など、実現が容易でない事項の要求(障害者差別解消法の社会的障壁の除去を求める場合を除く)
- 粗野または乱暴な言動など、従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求で、通常必要とされる以上の労力を要するもの(営業者が障害を理由とする不当な差別的取扱いをしたことに起因するものなど、合理的な理由があるものを除く)
旅館業法の指針は、特定要求行為に当たると考えられる例として、次のようなものを挙げています(同 3(2)②)。
- 宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレードなど、他の宿泊者と比べて過剰なサービスを繰り返し求める
- 特定の従業者にだけ応対させること、または特定の従業者を出勤させないことを繰り返し求める
- 土下座など社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める
- 対面や電話、メールなどで、長時間にわたって、または叱責しながら、不当な要求を繰り返す
宿泊を拒む前に必要なこと
旅館業法の指針は、次の点を示しています(同 3(2)①、3(3))。
- まず説明する: 要求に応じられない場合は、まず「そうした要求には応じられないが、宿泊自体は受け入れること」を説明し、それでも要求が続く場合に宿泊を拒むことができる。
- 客観的な事実で判断する: 主観的な判断ではなく、実際に特定要求行為を行っているという事実に基づいて判断する。みだりに宿泊を拒まないようにし、求めに応じて理由を丁寧に説明できるようにする。
- 記録する: 当分の間、この理由で宿泊を拒んだときは、理由、日時、拒否された人、対応の責任者の氏名、拒むまでの経過の概要などを記録し、作成から3年間保存する(改正法附則 第3条第2項、令和5年厚生労働省令第140号附則第2項、旅館業法の指針 3(3)②)。
なお、該当する場合でも、実際に宿泊を拒むかどうかの判断は営業者に委ねられているとされています(同 3(3)①)。
障害のある方への対応は別の枠組み
旅館業法の指針は、障害を理由として宿泊を拒むことはできないとし、障害者差別解消法の社会的障壁の除去(合理的配慮の提供)を求める場合は、繰り返し求めたとしても特定要求行為に当たらないとしています(同 3(2)①、③)。
特定要求行為に当たらない例として、筆談でのコミュニケーションを求めること、視覚障害のある方が部屋までの誘導を求めること、介護者や身体障害者補助犬の同伴を求めることなどが挙げられています。また、障害の特性によって何度も質問したり、声の大きさを調整できなかったりすることが把握できる場合に、「他の宿泊者に迷惑がかかる」などの理由で宿泊を拒むことはできないとしています(同 3(2)③)。
カスハラ対策の指針も、障害のある方が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を伝えることは、カスハラに当たらないとしています(カスハラ対策の指針 第2項⑴)。
従業者への研修
旅館業法は、高齢者や障害者など特に配慮を要する宿泊者にその特性に応じたサービスを提供するため、従業者に必要な研修の機会を与えるよう努めなければならないとしています(旅館業法 第3条の5第2項。努力義務)。旅館業法の指針は、障害の特性を研修で従業者に習熟させることが重要としています(同 3(2)③)。
カスハラ対策の指針の義務である、方針や対処の内容の周知(第4項⑴)は、研修で行うこともできます。企業マニュアルは、研修などの全員の受講と定期的な実施を重要とし、中途入社やパート・アルバイトにも入社時に研修や説明を行うよう勧めています(企業マニュアル 4.2.2(4)、P.34)。
まず、自社に足りないものを確認
宿泊拒否は、指針の5つの措置のうちの一部に関わるだけです。方針や相談窓口など、足りないものがないかを先に確かめると、何から決めればよいかがはっきりします。夜のフロントの初動と、宿泊を断る前に残す記録の見本は旅館・ホテル向けの一式にまとめています。
自社の不足を確認する(無料・約2分)方針と社内ルールのひな形は無料資料に、スタッフ向けの、読む目安が約10分(推定)の研修と受講記録の一覧の例はデモにあります。自社のスタッフ向けに使う場合の料金は料金ページ(月額4,980円・税込)にあります。