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旅館・ホテルのカスハラ対策、フロントの初動と宿泊を断る前に残す記録の見本
夜のフロントで客に長く絡まれても、従業員がその場で宿泊を断る必要はありません。従業員を守る手順(一人で抱えない、切り上げる、危ないときは警察)と、宿泊を断るかの判断(支配人が、旅館業法の範囲で、翌朝でもよい)を分けて決めておけば、夜勤1人でも動けます。
従業員を雇う旅館・ホテルには、2026年10月からカスハラ対策が義務になりました。一方で宿泊を断れる場合は旅館業法で限られ、断る前に「その要求には応じられないが、宿泊は受け入れる」と説明し、特定要求行為(または特定感染症)を理由に断ったら記録を3年間残すことになっています。このページは、その2つを原文で確かめ、フロントの手順と記録の見本にしたものです。
公開日・更新日: 2026年11月7日 / 2026年11月6日にカスハラ対策の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)と、旅館業法の宿泊拒否制限に関する厚生労働省の指針の本文で確認
うちの宿に足りないものを確認する(無料・約2分)今日やること: フロントの内側に貼る5行
- 宿泊を断るかどうかは、フロントで決めない。決めるのは〔支配人〕。夜中に決めなくてよい。
- 応じられない要求には「そのご要望にはお応えできません。ご宿泊はこのままお受けします」と伝える。
- 十分に説明しても同じ話が〔15分〕続いたら「これ以上はお答えできません。明朝、〔支配人〕からご連絡します」と伝えて、フロントの奥に下がる。
- 夜勤が1人なら、〔支配人〕の携帯に電話し、つないだまま(スピーカーで)対応する。つながらなければ〔2番目の連絡先〕。
- つかみかかる、突き飛ばす、物を投げる、脅す、奥に下がっても追ってくるときは、迷わず110番する。
1は、該当する場合でも実際に断るかの判断は営業者に委ねられ、客観的な事実で判断する、という旅館業法の指針の内容(3(3)①)をもとに、当サイトが運用の形にしたものです。2の言い方は、旅館業法の指針が要求に応じられないときにまず説明するよう求めている内容(「そうした要求には応じられないが、宿泊自体は受け入れること」)を、フロントで言える形にしたものです。この説明のあとも同じ要求が続くかどうかが、宿泊を断れるかの分かれ目になります。3〜5はカスハラ対策の指針の対処の例(すぐに報告して指示を仰ぐ、一人で対応させない、十分に説明してもなお要求が続けば一定の時間で切り上げる、犯罪に当たり得る言動は警察へ)を、夜勤1人の宿に置き直したものです。〔15分〕は当サイトの仮の数字で、指針に時間の定めはありません。宿で決めて書き込みます。
深夜に支配人が毎回電話で判断するのは続きません。夜中にやることは、従業員の安全(下がる、110番)と記録だけにして、宿泊の扱いは翌朝〔支配人〕が記録を見て決める、と分けておくと、電話は「危ないとき」と「判断に迷うとき」だけになります。
昨夜、従業員が絡まれたのなら
今日のうちに〔支配人〕がその従業員と話し、何を言われたかをそのままの言葉で書き留めます。次の夜勤が不安なら、その夜は電話をつないだまま勤務できるようにするか、勤務を入れ替えます。指針は、被害を受けた従業員と相手を引き離すこと、担当の変更、メンタルヘルスの相談に応じることを、事実が確かめられたときの配慮の例に挙げています(第4項⑶ロ)。相手がまだ泊まっているなら、その客の対応は〔支配人〕が引き取ります。
うちの宿に足りないものを確認する(無料・約2分)2つの決まりは何が違うか
カスハラ対策(労働施策総合推進法と指針)
- 決めること: 従業員を守る方針、相談の受け先、起きた後の対応、悪質な場合の対処。
- 義務を負うのは、従業員を雇う事業主。
- 記録: 事案と対応の経緯を記録して再発防止に使うことは「考えられる」取組(第4項⑶ハ)。
- 悪質な客へのサービスの提供をやめることは「法令の制限内において」の対処の例。業法の定めがある業種は、その違いに留意して方針を決めるのが効果的(第4項⑷)。
宿泊拒否の制限(旅館業法第5条と指針)
- 決めること: その客の宿泊を断れるか。
- 義務を負うのは、旅館業の営業者。
- 記録: 特定要求行為(第5条第1項第3号)か特定感染症(同第1号)を理由に宿泊を断ったら、理由、日時、断られた人、対応の責任者の氏名、断るまでの経過の概要などを記録し、3年間保存する(改正法附則第3条第2項)。
- 断れるのは第5条第1項の場合だけ。宿泊約款に別の理由を書いても無効(旅館業法の指針 3(3)③)。
カスハラ対策の指針の対処の例には「一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること」があります(第4項⑴ロ)。この例は「十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合」のものです。十分に説明しても要求が続くとき、電話を切る例はフロントでも使えます。一方、泊まっている客に館から出てもらうことは宿泊を断ることに当たり得るので、当サイトは旅館業法の決まりで判断する整理をすすめます。旅館業法の指針は、宿泊を断れる対象の「宿泊しようとする者」に、すでに泊まっていて2泊目以降を泊まろうとする人も含むとしています(旅館業法の指針 1)。今夜のうちに部屋から出てもらえるかの手順は書かれていないので、暴行や脅迫など危険があるときは、その夜は従業員の安全を優先して警察を呼び、宿泊の扱いは翌日、都道府県・保健所設置市などの旅館業の担当窓口か弁護士に相談してから決めてください。
旅館業法の指針が挙げる、断れる場合がある要求
旅館業法の指針は、特定要求行為に当たると考えられる例を挙げています。どれも「繰り返し」求めることが条件で、一度言われただけでは当たりません(旅館業法の指針 3(2)①②)。宿でよく起きそうなものを3つ選び、フロントの動き方を添えました。
不当な割引やアップグレード、レイトチェックアウトを繰り返し求める
指針の例は「宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎等」を、ほかの宿泊者と比べて過剰に繰り返し求める行為です。フロントは値引きやアップグレードをその場で約束せず、「そのご要望にはお応えできません。ご宿泊はこのままお受けします」と伝えて、言われた内容と回数を書き留めます。宿の設備や対応に落ち度があって損害が出た場合に対応を求めることは、手段や態様が不相当でない限り、特定要求行為に当たりません(同 3(2)③)。
出典: 旅館業法の指針 3(2)② P.29〜30、③ P.32
酔った客がフロントで長く絡む、介抱を繰り返し求める
指針は「泥酔し、他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれがある宿泊者」が「長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為」や、対面で「長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行う行為」を例に挙げています。夜勤が1人なら、相手を続けるうちにフロントが空き、ほかの客への対応が止まります。フロントは上の5行の3のとおり、決めた時間で切り上げて奥に下がり、〔支配人〕に電話をつなぎます。従業員につかみかかったり突き飛ばしたりした場合は暴行罪が成立し得るとして、警察に協力を頼むのが適切と考えられる、とも書かれています(酒に酔っている場合を含む。同 3(3)③)。
出典: 旅館業法の指針 3(2)② P.30、3(3)③ P.34〜35
特定の従業員を出せ、出すな、土下座しろと繰り返す
指針の例には、特定の人にだけ応対させること、特定の人を出勤させないことを繰り返し求める行為と、土下座など社会的相当性を欠く方法での謝罪を繰り返し求める行為があります。名指しされた従業員は前に出さず、〔支配人〕か夜間の責任者が代わって対応します。カスハラ対策の指針も、必要に応じて管理監督者が代わって対応することを対処の例にしています(第4項⑴ロ)。
出典: 旅館業法の指針 3(2)② P.30、カスハラ対策の指針 第4項⑴ロ
断ってはいけない場合: 障害のある客の求め
旅館業法の指針は、障害を理由に宿泊を断ることはできないとしています。障害者差別解消法の社会的障壁の除去(合理的配慮)を求めることは、繰り返し求めても特定要求行為に当たりません。例として、フロントでの筆談、部屋までの誘導、車椅子で入れるようにベッドやテーブルを動かすこと、介護者や身体障害者補助犬の同伴が挙がっています(旅館業法の指針 3(2)①③)。
見分けにくいのは、障害の特性で何度も同じことを尋ねたり、声の大きさを調整できなかったりする場合です。指針は、障害の特性によると本人や同行者に聞くなどして分かるのに、「他の宿泊者に迷惑がかかる」などの理由で断ることはできない、としています(同 3(2)③)。フロントで「障害の特性かもしれない」と感じたら、断る方向に進まず、本人や同行者に事情を聞き、〔支配人〕に相談します。カスハラ対策の指針も、障害のある方が配慮を求めることはカスハラに当たらないとしています(第2項⑴)。
旅館・ホテル向けの一式の見本
カスハラ対策の指針の義務は、方針の明確化と周知、相談体制、起きた後の対応、特に悪質なものへの対処の方針と体制、プライバシーの保護と不利益な扱いの禁止です。ここに並べるのは、そのうち方針、初動、記録を旅館・ホテルの形にした見本です。宿の名前と担当者の名前を書き入れて全員に伝えると、方針の周知と相談の受け先が揃います。残りは無料のチェックで確かめられます。
方針(抜粋・見本)
〔宿名〕は、お客様のご意見を聞き、宿の誤りは謝って改めます。一方で、従業員への暴力、暴言、脅し、土下座の要求、特定の従業員個人への攻撃や要求は認めません。従業員はこうした言動を受けたら一人で抱えず、すぐ〔責任者〕に知らせてください。宿が対応します。相談したことで不利益に扱うことはありません。
宿泊をお断りするかどうかは、旅館業法の定めに沿って〔支配人〕が判断します。フロントの従業員が、その場の判断で宿泊をお断りすることはありません。
もとにした箇所: カスハラ対策の指針 第2項⑸イ・ロ(言動の内容と手段・態様の例)、第4項⑴イ・ロ、第4項⑷、第4項⑸ロ(相談を理由とする不利益な扱いの禁止)、旅館業法の指針 3(2)、3(3)①
館内・ウェブサイトの掲示(見本)
ご宿泊のお客様へのお願い
当館では、従業員への暴力、大声や暴言、脅し、土下座の要求、従業員の個人的な情報を求めることをお断りしています。こうした行為があった場合は、〔責任者〕が対応し、状況により警察に通報します。サービスへのご意見や、障害などによる配慮のご相談は〔窓口〕で承ります。
方針を客に知らせることは、カスハラ対策の指針で「効果的と考えられる」取組で、義務ではありません(第4項⑴イ)。掲げる行為は指針 第2項⑸の例から選びました。「当館の判断で宿泊をお断りすることがあります」のような文は入れていません。旅館業法の指針は、第5条第1項にない理由を宿泊約款に書いても無効で、その理由で断れば法違反になるとしているためです(3(3)③)。
夜のフロントの初動(抜粋・見本)
- 応じられない要求: 「そのご要望にはお応えできません。ご宿泊はこのままお受けします」と伝え、言われたことと回数を書き留める。
- 十分に説明しても同じ要求が〔15分〕続く: 「これ以上はお答えできません。明朝、〔支配人〕からご連絡します」と伝えて奥に下がり、〔支配人〕に電話をつなぐ。フロントは宿泊を断ると言わない。宿泊の扱いは翌朝〔支配人〕が決める。
- 電話で同じ要求が続く: 十分に説明したあとも続けば、「この件はこれ以上お答えできません。〔責任者〕から改めてご連絡します」と伝えて切る。
- つかみかかる、突き飛ばす、脅す: まず離れる。ほかの客を遠ざけ、警察に通報する。
- 障害の特性かもしれないと感じたら: 断る方向に進まず、本人や同行者に事情を聞き、〔支配人〕に相談する。
- 対応した従業員を相手から離し、その夜のうちに声をかける。翌朝、〔支配人〕が話を聞く。
- 交代の前に、下の記録の5項目だけ書く。
もとにした箇所: 1は旅館業法の指針 3(2)①、2は3(3)①(断る判断は営業者に委ねられ、客観的な事実で判断する)とカスハラ対策の指針 第4項⑴ロ(一定の時間で切り上げる)。〔15分〕と「翌朝決める」は当サイトの提案です。3と4はカスハラ対策の指針 第4項⑴ロの対処の例(すぐに報告、一人で対応させない、一定の時間で電話を切る、警察への通報)と旅館業法の指針 3(3)③。5は旅館業法の指針 3(2)③。6の引き離しと相談対応はカスハラ対策の指針 第4項⑶ロの例に近く、7は第4項⑶ハで「考えられる」とされている取組です。夜間の連絡の流れ、「交代の前に」の時期は、当サイトが足したものです。
記録する項目(見本): カスハラの記録と宿泊拒否の記録を1枚で
夜勤の人が交代前に書くのは5つだけ: 日時 / 客の部屋番号 / 言われたこと・されたことを、そのままの言葉で / 「お応えできません」と伝えたか、その後も続いたか / 警察を呼んだか。
残りは翌朝〔支配人〕が埋めます: 日時 / 場所(フロント、客室、電話、メール、館内) / 客の氏名と部屋番号 / 言われたこと・されたことを、そのままの言葉で / 求められたこと / 伝えた時刻と、その後も続いたか / 何回目か / 最初に対応した従業員と、引き継いだ人 / 宿がした対応 / 録音・防犯カメラの有無 / 警察への通報の有無 / 対応した従業員への声かけ / 〔支配人〕の判断(宿泊を断ったか)、判断した責任者の氏名、断った理由と、断るまでの経過
最後の欄までの項目で、特定要求行為を理由に宿泊を断ったときに残す内容(理由、日時、断られた人、対応の責任者の氏名、断るまでの経過の概要など。改正法附則第3条第2項、令和5年厚生労働省令第140号附則第2項、旅館業法の指針 3(3)② P.33〜34)が埋まるようにしてあります。この記録は作成から3年間保存します。都道府県などから報告を求められたときに備えたもので、客から求められたときに断った理由を説明できるようにする規定とも関係します(同)。記録には客の個人情報が入るので、個人情報保護法に沿って、見られる人を決めて保管してください。録音・録画も同法を守って行います(カスハラ対策の指針 第4項⑴ロ、⑶ハ)。無料の相談記録台帳に主な項目が入っています。宿泊を断った件の3年保存は、台帳とは別に管理してもかまいません。
今週と今月やること
今週
上の方針の見本と無料の方針ひな形を宿の名前で書き換え、全員に伝えます。夜勤だけの人、清掃や配膳のパート、派遣で来ている人も対象です(カスハラ対策の指針 第2項⑶)。清掃を外部の会社に委託している場合、その会社の従業員への言動についても同じ方針を示すことは、指針で「望ましい」取組とされています(第7項)。シフトで全員がそろわない宿は、紙を休憩室に置くか、各自のスマホで読める形にして、誰が読んだかを控えます。夜間の連絡先の順番もこのときに決めます。
今月
特に悪質な場合の方針を決めます。この方針を決めて従業員に伝え、方針どおりに対処できる体制を整えることは、カスハラ対策の指針の義務です(第4項⑷)。旅館・ホテルでは、宿泊を断る判断は旅館業法の範囲で〔支配人〕が行うこと、その前に必ず説明すること、断ったら記録を3年間保存することを、方針の中に書き込みます。旅館業法は、高齢者や障害者など配慮の要る客に特性に応じたサービスを提供するため、従業者に研修の機会を与えるよう努めることも求めています(旅館業法第3条の5第2項、努力義務。旅館業法の指針 4(1))。カスハラ対策の周知と同じ機会に、障害のある客への対応も伝えると、1回で済みます。
無料の資料だけで足りる場合
支配人が毎日フロントに立ち、従業員が数人で入れ替わりもない宿なら、このページの見本と無料の資料で揃えられます。カスハラ研修ナビ(月額4,980円・税込、同時に50名まで、14日間無料、申込みにはカード登録が必要)が役に立つのは、夜勤やパートのシフトで全員を集めにくく、各自のスマホで同じ内容を読んでもらい、受講を記録しておきたい宿です。有料版の研修には、旅館業法の宿泊拒否制限の指針に沿った旅館・ホテルの場面が入っています。研修のデモで見られるのは飲食店の場面です。
まず、宿に足りないものを確認
12の質問(業種はこのページから引き継ぐので省きます)に答えると、カスハラ対策の指針の5つの措置のうち宿に足りないものが一覧で出て、足りないものごとに使える無料資料が分かります。登録は要りません。
当サービスで今使えるのは、無料のチェックと資料と、有料の研修、受講記録、相談窓口と困ったときの連絡先の登録(スタッフの研修画面に表示)、管理画面で方針・発生時の対処・初動フロー・掲示文をひな形から作る機能です。スマホからの事案の記録と年1回の見直しは準備中です。
うちの宿に足りないものを確認する(無料・約2分)旅館業法の特定要求行為と障害のある方への対応の詳しい整理は旅館・ホテルのカスハラ対策、義務化と旅館業法の宿泊拒否に、相談の受け先の決め方はカスハラの相談窓口、小さな会社はどう決める?に、パートや派遣の従業員への研修の考え方はカスハラ研修はパート・アルバイトにも必要?にあります。館内に飲食店がある宿は飲食店向けの一式もご覧ください。