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クリニック・病院のカスハラ対策、応招義務と診療を断れる場合の考え方

応招義務があっても、どんな患者でも必ず診なければならないわけではありません。厚生労働省の通知(令和元年12月25日 医政発1225第4号)は、診療と関係のないクレームを繰り返すなどして診療の基礎となる信頼関係が失われた場合、新たな診療を行わないことが正当化される、と書いています。ただし緊急の対応が必要な患者は別の扱いです(通知 2⑵)。当サイトは、緊急かどうかの判断を受付ではなく医師がする形をすすめます。

あわせて、職員を1人でも雇っている病院や診療所は、2026年10月1日から、患者や家族からのカスハラへの対策が義務になりました(労働施策総合推進法第33条)。指針は、カスハラをする側(顧客等)に含まれる「施設の利用者」の例に、病院をはっきり挙げています(第2項⑷)。

公開日・更新日: 2026年11月6日 / 応招義務の通知と、カスハラ対策の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)の本文で確認

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!!医師が判断

今日やること: 受付の内側に貼る3行

  1. 受付と電話では、診療を断るかどうかを決めない。
  2. 怒鳴られたら一人で対応せず、呼ぶ。1番目に院長、診察中なら事務長か看護師のリーダー(時間帯ごとに名前と内線を書く)。
  3. 暴力や脅しは、その場で警察に通報してよい。

今日、職員が怒鳴られたのなら、その職員を相手から離し、少し休ませて話を聞き、何を言われたかをそのままの言葉で書き留めておきます。指針は、被害を受けた職員と相手を引き離すことや、メンタルヘルスの相談に応じることを、事実が確かめられたときの配慮の例に挙げています(第4項⑶ロ)。

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応招義務の通知は、診療を断れる場合をどう分けているか

通知は、診療しないことが正当化されるかを考えるとき、いちばん重く見るのは患者に緊急の対応が必要かどうか(病状の深刻さ)だとしています。このほかに考える要素として、求められたのが診療時間内か時間外か、患者と医療機関・医師との信頼関係を挙げています(通知 1⑶)。通知の整理は次の4つです(通知 2⑴)。

  1. 緊急の対応が必要で、診療時間内: 事実上診療ができない場合に限って、診療しないことが認められる。
  2. 緊急の対応が必要で、診療時間外: 応急的な処置をとることが望ましいが、原則として責任は問われない。
  3. 緊急の対応が不要で、診療時間内: 原則として診療する。ただし、信頼関係なども考えに入れ、緊急の場合より広く、診療しないことが認められる(通知の言葉では「緩やかに解釈される」)。
  4. 緊急の対応が不要で、診療時間外: すぐに対応する必要はない。時間内の受診や他院の紹介が望ましい。

迷惑行為については、個別の事例として次のように書かれています(通知 2⑵①)。

「診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。」

この事例にあたる場合でも、緊急の対応が必要な患者には 2⑴① の整理が使われる、と通知は断っています。緊急の患者は、迷惑行為の事例ではなく 2⑴① の整理(時間内なら、事実上診療できない場合に限って診療しないことが認められる)で判断され、緊急でなく時間外の求めは 2⑴②イ で判断されます(通知 2⑵の冒頭)。受付で緊急かどうかを見分けられないのは当然なので、その判断は医師に回します。

通知が書いているのは「新たな診療を行わない」ことです。いま通院している患者の治療をどこで区切るか、他院への紹介や引き継ぎをどうするかは、通知に手順が書かれていません。院長が判断する前に、弁護士か所属の医師会・歯科医師会に相談してください。

怒鳴ったのが患者の家族だったら

通知の迷惑行為の項は「患者の迷惑行為」という見出しで、家族の言動を理由に患者本人の診療をどう扱うかは書いていません。家族の言動だけを理由に患者本人の診療をやめられるかは個別の判断になるので、院だけで決めず、弁護士か医師会に相談してください。

一方、職員を守る対応は、相手が家族でも同じです。カスハラ対策の指針は、カスハラをする側の「顧客等」の例に「施設・サービスの利用者及びその家族」を挙げています(第2項⑷)。家族への病状の説明は医師に引き継ぎ、受付や看護職員が一人で責め立てられる状態をなくし、暴力や脅しがあれば警察に通報します。

受付や看護職員は、暴言を我慢し続けなければならないのか

いいえ。患者の診療を続けるかどうかの判断と、目の前で怒鳴られている職員を守ることは、分けて考えます。カスハラ対策の指針は、対処の内容の例として、職員から管理監督者にすぐ報告して指示を仰ぐこと、できるだけ職員を一人で対応させないこと、必要なら管理監督者が代わって対応すること、十分に説明してもなお繰り返しの要求が続く場合は一定の時間で退出を求めたり電話を切ったりすること、暴行や脅迫など犯罪に当たり得る言動は警察に通報すること、を挙げています(指針 第4項⑴ロ)。

ただし指針は、医療のような仕事について注意も書いています。法律で診療などの義務が決められている場合や、サービスが止まると相手の命や健康に重い影響が出る場合があることに気をつけて対応する、という一文です(指針 第4項の冒頭)。悪質な相手にサービスを提供しない、という対処の例も「法令の制限内において」と書かれ、業種ごとの法律で必要な対応が違うことに気をつけて方針を決めるのが効果的、としています(第4項⑷)。医療では、その法律の一つが応招義務です。

認知症やせん妄、精神症状など、病気が原因の言動もあります。指針は、障害を理由とする差別の禁止や合理的配慮の提供義務に留意するよう求めています(第4項の冒頭)。障害のある方が、差別的な扱いをしないよう求めたり、配慮を求めたりすること自体はカスハラに当たらない、とも書いています(第2項⑴)。病気や障害の症状が原因と考えられる言動は、職員を守る対応(一人にしない、離れる)は同じにしたうえで、診療の扱いは医師が病状として判断します。

小さなクリニックで分けるとすれば、次の形です。

  1. 受付や看護職員は、その場で診療を断るかどうかを決めない。暴言や威圧があれば、一人で対応せず、決めた人を呼ぶ。
  2. 呼ばれた人(院長、院長が診察中なら事務長や看護師のリーダー)が代わって対応する。暴力や脅しがあれば警察に通報する。
  3. 今後の診療をどうするかは、院長(医師)が、緊急性と、それまでの記録をもとに通知に沿って決める。迷ったら弁護士や医師会に相談する。

1〜3は、通知と指針を並べて当サイトが組み立てた分け方です。指針が挙げる対処の例(すぐに報告、一人で対応させない、代わって対応、警察への通報)と、通知が診療の判断を医師・医療機関のものとしている点に沿わせています。

クリニック・病院向けの一式の見本

指針の義務は、方針の明確化と周知、相談体制、起きた後の対応、特に悪質なものへの対処の方針と体制、プライバシーの保護と不利益な扱いの禁止です。ここに並べるのは、その形にするための見本です。院の名前と担当者の名前を書き入れて職員全員に伝えると、方針の周知と相談の受け先の2つが揃います。残りの3つは無料のチェックで確かめられます。

方針(抜粋・見本)

〔院名〕は、患者さんとご家族のご意見を聞き、院の誤りは謝って改めます。一方で、職員への暴力、暴言、脅し、診療と関係のない要求の繰り返し、無断での撮影は認めません。職員はこうした言動を受けたら一人で抱えず、すぐ〔責任者〕に知らせてください。院が対応します。相談したことで不利益に扱うことはありません。

今後の診療をどうするかは、病状と緊急性を踏まえ、院長が判断します。受付や電話を受けた職員が、迷惑行為を理由にその場で診療をお断りすることはありません。

もとにした箇所: 指針 第2項⑸イ・ロ(言動の内容と手段・態様の例)、第4項⑴イ・ロ、第4項⑷、第4項⑸ロ(相談を理由とする不利益な扱いの禁止)、応招義務の通知 1⑶、2⑵①

院内掲示(見本)

患者さんとご家族へのお願い

当院では、次の行為をお断りしています。暴力、大声や暴言、脅し、職員の個人的な情報を求めること、診察室や受付での無断の撮影、長時間の居座り。こうした行為があった場合は、〔責任者〕が代わって対応し、状況により警察に通報します。暴言などが繰り返され、診療の基礎となる信頼関係が失われたと院長が判断した場合は、新たな診療をお受けできないことがあります。ただし、緊急の治療が必要な場合や、病気や障害の症状による言動の場合は、診療をお断りしません。ご意見・ご要望や、障害などによる配慮のご相談は〔窓口〕で承ります。

方針を患者や家族に知らせることは、指針で「効果的と考えられる」取組で、義務ではありません(第4項⑴イ)。掲げる行為は指針 第2項⑸イ・ロの例から選びました。最後の2文は応招義務の通知 2⑵①と、緊急時の扱いに沿わせています。

場面ごとの初動(抜粋・見本)

  1. 受付で怒鳴られたら: その場で言い返さず、決めた合図で〔責任者〕を呼ぶ。ほかの患者さんを待合の別の場所へ案内する。
  2. 電話で同じ要求が続くとき: 十分に説明したあとも同じ要求が続けば、「この件はこれ以上お答えできません。〔責任者〕から改めてご連絡します」と伝えて切る。
  3. 診察室や病棟で家族が職員を責め立てるとき: 担当を複数人にし、病状の説明は医師に引き継ぐ。
  4. 暴力、物を投げる、脅す: まず離れる。2人以上で対応し、警察に通報する。
  5. 撮影されたら: 撮影はお断りしていると伝え、〔責任者〕を呼ぶ。
  6. 対応した職員を相手から離し、その日のうちに話を聞く。帰り道が心配なら一人で帰さない。
  7. その日のうちに記録する。

もとにした箇所: 指針 第4項⑴ロの対処の例(すぐに報告、一人で対応させない、一定の時間で電話を切る、警察への通報)、第2項⑸ロ(盗撮や無断での撮影)。1の「ほかの患者さんの案内」、3の「病状の説明は医師に」、5、6の「一人で帰さない」、7は当サイトが足した項目です。4の「離れる」と6の引き離し・相談対応は指針 第4項⑶ロの例に近く、記録は第4項⑶ハで「考えられる」とされている取組です。

記録する項目(見本)

日時 / 場所(受付、待合、電話、診察室、病棟) / 患者か家族か / 言われたこと・されたことを、そのままの言葉で / 求められたことと、それが診療の内容に関係するか / 何回目か / 最初に対応した職員と、引き継いだ人 / 院がした対応 / 録音・防犯カメラの有無 / 警察への相談の有無 / 対応した職員への声かけ / 院長の判断(今後の診療をどうするか)

通知は、迷惑行為の「態様に照らし」て信頼関係が失われたかを見るとしています(2⑵①)。院長が判断するとき、診療と関係のない要求が何回、どういう言葉で続いたかの記録がその材料になります。記録には病状など配慮の要る個人情報が入り得ます。録音・録画や記録は個人情報保護法に沿って扱い、録音・録画をするなら院内掲示などで知らせ、見られる人を決めて保管してください(指針 第4項⑴ロ、⑶イ②、⑶ハ。相談した職員のプライバシーの保護は⑸イ)。無料の相談記録台帳に主な項目が入っています。

今週と今月やること

今週

上の方針の見本と無料の方針ひな形を院名で書き換え、朝のミーティングや申し送りで全員に伝えます。パートの受付職員、派遣で来ている医療事務の職員、院が雇っている非常勤の医師も対象です(指針 第2項⑶)。シフトで全員がそろわない院は、紙を回覧するか、各自のスマホで読める形にして、誰が読んだかを控えます。

今月

特に悪質な場合の方針(警告文を出す、今後の診療を院長が判断する、出入りを断る、など)を決めます。この方針を決めて職員に伝えることは義務です。指針は、業法の定めなどで必要な対応が異なることに留意して決めるのが効果的、としています(第4項⑷)。院内掲示を出すかもこのときに決めます。新しい診療をしないと院長が判断するときは、その前に弁護士か、所属する医師会・歯科医師会に相談する手順も書き込みます。

無料の資料だけで足りる場合

院長が毎日いて、職員が数人で入れ替わりもない診療所なら、このページの見本と無料の資料で揃えられます。カスハラ研修ナビ(月額4,980円・税込、同時に50名まで、14日間無料、申込みにはカード登録が必要)が役に立つのは、シフト制やパートの入れ替わりで全員を集めにくく、各自のスマホで同じ内容を読んでもらい、受講を記録しておきたい院です。有料版の研修には、応招義務の通知に沿った医療の現場向けの場面が入っています。研修のデモで見られるのは飲食店の場面です。

まず、院に足りないものを確認

12の質問(業種はこのページから引き継ぐので省きます)に答えると、指針の5つの措置のうち院に足りないものが一覧で出て、足りないものごとに使える無料資料が分かります。登録は要りません。

当サービスで今使えるのは、無料のチェックと資料と、有料の研修、受講記録、相談窓口と困ったときの連絡先の登録(スタッフの研修画面に表示)、管理画面で方針・発生時の対処・初動フロー・掲示文をひな形から作る機能です。スマホからの事案の記録と年1回の見直しは準備中です。

うちの院に足りないものを確認する(無料・約2分)

相談の受け先の決め方はカスハラの相談窓口、小さな会社はどう決める?に、パートや派遣の職員への研修の考え方はカスハラ研修はパート・アルバイトにも必要?に、義務の全体はカスハラ対策の義務化、中小企業は何をすればいい?にあります。介護の事業所は介護事業所向けの一式をご覧ください。